が、くさい 第三場

あこ  2009-10-08投稿
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「やるか、英語劇。」

先生のその一言で私の身体からふっと力が抜けた。今まで無意識のうちに自分の手を握りしめていたらしい。爪が掌に食い込んでいた。生々しく、くっきり跡が残っている。


教室は絶望的な沈黙から一転、手に負えない騒がしさに満ちていた。至る所で、意見が飛び交っている。
時には意見に混じって、全く関係のない話しもあっただろう。

でもその時の私は身体中の力が抜けて、まるで入れ物がない物体とも呼べない、液体?もしくは気体のように実体を伴っていなかった。だから、言い訳ではないのだが、正直に、何も聞こえていなかったのだ。
というより、何も聞きたくなかったのかもしれない。私にとって、益があることが話されるとはとても思えなかったし、とにかく、私はやりきった、という何ともいえない充実感に満たされていたのだ。

まだ何にも始まってなんかないというのに。


「うん……、私も、よく考えてみたら、英語なら……良いかなって思ってきたかも。」


ん??今のは川上さん?

川上さんが私の意見に同意してるのか?


「確かに、瀬戸のいうとおり勉強にもなりそうだし。お祭りみたいでいいじゃん。最後にさ。」

お、ナイスアシストだよ〜!ユミコ!

ユミコは私の親友に近い存在。優しくて、面白い。クラスの盛り上げ役でもある。どっちかというと人見知りで、笑顔の少ない私とは真逆のタイプだ。
だけどなぜか折りが合う。

無い物ねだりなのだ。用は。


「はぁ??何だよ、お前らー。結局、秋谷に良い顔したいだけだろー。」


秋谷というのはあの人の名前だ。男子が嫉妬する程、人気があるのだ。しかも男女問わず。

「おいおい、呼び捨てはないだろ、一応センセイだぞ?」

その自称センセイは、わざと怒った声で言った。

「だってそーだろ。女子は下らねぇーよ。そんな黄色い気持ちで受験捨てられるかよ。」


「はっ、確かに俺が人気があるのは認めよう。」


その自信過剰なセンセイは続けた。

「だが、学祭とそれが受験を捨てるとイコールにはならねぇだろうが。そんな頭堅いからもてねーんだよ。」

センセイは生意気な男子、池田の頭に軽く手を置いて言った。

センセイの手はすっぽり何かを包んでしまいそうな手だった。

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