「僕も何度か彼女に話しかけてみました。
彼女以外の子供たちにもです。
でも、僕には何もすることができない。
僕、ずっとボランティア活動やっていたんです。
ここでもきっと、僕を必要としてくれると。
でも、ここに来て、僕の存在価値が余計に見えなくなってきました。
僕はここに必要なのか。僕を必要としてる人がここにいるのか。
いや、僕自身必要な人間なのか。
自分からここに志願して入ってきたのに、
僕自身、人から捨てられた感じです。」
彼の涙まじりの話を聞いて、
塚本は、「今日のとこは…」と言って帰って来た。
「実際のところ、自分でも何ができるのかわからない。あれだけ病んでる人ばかりの中にいて、
自分自身、辛くて悲しみもだえそうだ。」
そう言いながら、塚本は昼間見た、
死んだような眼をした職員たちの姿、
皆が何かに怯えたように歩いて行く、廊下ですれ違った子供たち、
入所寮が高いだけに、全て揃ったような設備と、
緑豊かな中庭の木々、
でもそこに、ほとんど人をみかけなかったこと。
そして、あれだけキレイな顔をした少女の、
一瞬にして獣のような顔つきになったあの時の映像を思い返しながら、
「でも、だからこそ、神の愛が必要なんだ。みんな癒されないといけない。」
そう言って、祈った。
「そういえば、あの色々と教えてくれた彼の名前も今度会ったら聞かなくちゃいけないな。
彼もきっと、自分の役割を見つけられなくて、淋しいんだろう。」
まだ28歳の塚本にとって、どう見ても彼の方が年上だろう、と思えたが、彼のほうは少し頼りなさそうに見えた。