放課後の教室。私はユミコを待っていた。ユミコはテニス部で、私も誘われたけれど運動音痴な私は断った。
特に放課後やることもないので、大体の場合教室で勉強したり、本を読んだりしてユミコを待っている。
私はこの日も半分ぼーっとしながら、英語の予習をしていた。
完璧にしていたいのだ。常に。
すると、唐突に教室のドアが開いた。
それも、乱暴に。
私は夢の世界から一瞬にして引き戻された。
「瀬戸。何してんの、こんな時間に。」
あの人だった。私は目を逸らしながら答える。
「ユミコ……待ってるんです。」
「………ふぅん。」
あの人は興味なさげに言った。
「仲いいね。」
「え…、あ、はい!中学からの付き合いだから。」
「そーなんだ。タイプ違う風に見えるけど。面白いな。」
「そうですか…。」
先生は窓際まで行き、校庭を見ている。下からはサッカー部の賑やかな声が聞こえてくる。
「先生は……何、してるんですか。」
「ちょっと、サボり。」
私の好きな、悪戯っ子のような笑みをした。
「サボりって………。」
私はわざと呆れたような声をだした。
「いーの。たまには。大人だから。」
「なんか……ずるい。」
線を引かれた気がした。大人と子供。解りきったことなのに、改めて先生の口から聞くと、痛い。
「今日お疲れさま。頑張ったな。」
「何がですか。」
「学祭の、英語劇。瀬戸ってあんま何か自分から提案したりする子じゃないと思ってたから、びっくりしたけど、良いこと言ってたじゃん。」
「そう…ですか。」
「うん、そうだよ。」
そう言って先生は私の頭を撫でた。子供にそうするみたいに。軽く手を置いた。
先生の手は大きくて、暖かかった。
「ん、じゃまた明日。」
先生はそう言ってドアに手をかける。
「先生!」
「ん?」
「先生も……ありがとうございました!一票くれて。」
「ああ〜。だって楽しそうじゃん。」
そう言って教室をでていった。
私は一人、先生のいた空気の余韻に浸っていた。