廊下を歩いていると
ちょうど病室から出てくる
医師や看護師の姿が見えた
彼らが出ていった病室に
俺らは足を踏み入れた
「拓也さん…」
振り返った愛の母親の声は
震えていた
「…先ほど…
亡くなりました」
愛はいつもと変わらず
そこにいた
俺はずっと彼女が目覚めることを
願っていた
彼女はいつもどおり
眠っている
だがもう二度と
俺やゆかの願いが
叶うことはない
愛の母親の言葉に
ゆかの涙はさらに激しくなった
俺はゆかを抱きしめてやり
言葉を探したが
何も言えなかった
俺はゆかを支え
彼女の病室へ連れていった
ゆかの涙は絶えることがなかった
ついに愛は
俺と言葉を交わすことも
会うことも
俺という存在さえ知ることなく
亡くなった
俺の周りにいる奴らは
馬鹿みたいに健康で
この歳になって
初めて死というものを
実感した