私は苛々していた。苛々しすぎて苦手なコーヒーを一気飲みしちゃう程、苛々していた。
「にがい………。」
「砂糖、あったのに。」
「にがいよ!馬鹿。」
「ごめん……。」
私は苛々するといつも後藤にあたってしまう。こいつは幼なじみで、親同士も仲良いから、小さい頃からお互いの家を行き来していた。
私には兄弟がいないから、後藤が兄であり、弟だった。
いつからだろう。後藤のことを見下すようになったのは。
昔からナヨナヨした奴だったけど、私の人形遊びに付き合ってくれたし、それはそれで良かった。
けど、中学で後藤は私立の、所謂、進学校に行き、私は地元の公立に行き、自然と距離ができた。
後藤の頭ならもっといいとこ行けたのに、また公立高校に舞い戻って来た。
私は中学から仲良い友達が高校も一緒だから、後藤と学校で話さなくなった。
親に、後藤が中学でいじめられていたことを聞いた。
それを聞いて、私は後藤を見下すようになったのかもしれない。
「甘いの飲みたい。」
「牛乳でいい?」
「センスない。」
「ごめん……。」
いつからだろう。後藤は「ごめん」が口癖になった。いつも人の目を気にして、下を見ている。前髪も目にかかるぐらい長くて。せっかく綺麗な顔をしてるのに、勿体ない。
そう思うのはきっと私だけだろう。幼なじみのよしみというか。そんなものだ。
「何も聞かないんだ。」
私は意地悪く言った。
「……どうしたの?」
後藤は消え入りそうな声で言った。
「何でもない。」
私はなるべく感情を入れずに答えた。低く、突き放すように。私はこの人をどれだけ傷つければ気が済むんだろう。
甘い、牛乳を飲みながらそんなことを考える。
「ん…、砂糖入れた?」
「ホッとミルクには砂糖二つ。実緒のルールでしょ。」