がく、さい 第二場 〜川上さんの話〜

あこ  2009-10-11投稿
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「なにそれ。いつの話してんの。」


私はまた、感情を押し殺した声で言う。


「いつって……昔から…。」


私は話を遮って立ち上がった。そして台所まで行って暖かくて甘い牛乳を流しに捨てた。


白い液体は渦を巻いて暗い穴へと吸い込まれる。


後藤が後ろで顔を伏せているのが分かる。

「………先生のこと?」


後藤は自信のない声で聞く。

私は黙ったまま、残った白い筋を見つめていた。

「学祭?そんなに嫌だった?」


「私が…」


私は声を絞りだすようにして言った。

「私が言いたかったの!英語劇って。」


後藤はきっと呆れた顔をしてるだろう。でもお構いなしに私は続ける。

「だって、先生と思い出作りたかったし、なのに、瀬戸ちゃんがさぁ……」

嫌な女。自分でも分かる。なのにむかつくんだから仕方ない。しかもどうでもいい後藤にしか愚痴れない。
そんな自分も恰好悪い。


「だって……さ、少しでも…気に入られたいじゃん…。」


あーあ。何してんだか。私。

「とにかくむかつくの!」

私は勢いよく振り返った。

すると後藤は呆れるでもなく、俯くでもなく、真っすぐした目で私を見てた。


私は耐え切れなくなり目を逸らす。


後藤は変わらず私を見ている。でもその目は優しかった。目が笑ってるようにみえた。


「いーよ。実緒、僕になら何言っても。」


「偉そうに。後藤のくせに。」

私は可愛くないことを言う。つくづく。可愛くない。


「多分、実緒主役でしょ。頑張ってる姿見せればいいんだよ、先生にさ。」


「それ、止めてよ。」

「え?」

「呼び捨てしないで。いつまでも子供じゃないんだから。」


今の私が言っても説得力ないけど。後藤は変わらない声で言った。


「川上さん。大丈夫だよ。」


川上さん……そう言われて、一気に距離を感じた。後藤は私が「ゆうくん」から「後藤」って呼び始めた時、どう思ったんだろう。


「ま、どーせ私ぐらいしか主役できる子なんていないだろうしね。姫って感じでしょ。私。」

私は精一杯の強がりで笑った。



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