「じゃあ、もう帰るわ、少しだけすっきりしたし。」
私は素直じゃないのだ。
「うん。おやすみ。」
私は返事をせずに部屋を出た。
いつまで経っても後藤に頼ってしまう。頭では分かってる。
でも大切にできない。
だって、後藤は私のことが好きだから。
私だってそこまで意地悪でも鈍感でもない。
だからこそ、優しくなんてできない。傷つけて、傷つけて、私のことなんて消してしまえばいい。
学祭で、英語劇をやるって決まってから一週間。
演目はロミオとジュリエットをアレンジしたものになった。先生がさらさらっと書き直してくれたのだ。
流石、先生。
ジュリエット候補には私と遠藤ユミコがあがった。
ま、当然ながらジュリエットは私に決まった。
ロミオは……………………………………………
先生。
台詞量的に先生以外に出来る人がいないっていう理由。
棚からボタモチ。
私はツイてるのかもしれない。高校三年の秋。私に一世一代の大チャンスが訪れた。秋だけど、春。私にとっては春。
一年の時から好きだった。二年で念願の担任になった。
でも距離感はずっと埋まらなかった。
結局は先生と生徒。
師弟関係。
一線を引かれてる。
自分でも分かってる。
だからこそ、好きなのかもしれない。
でも、どこかでケリをつけなきゃ。どこにもいけないんだ。
「先生っ!」
私は早速行動に出る。
授業後、職員室のドアを覗き込む。
「どうした、川上。」
「台本の台詞でちょっと分からないところがあって。」
「それなら、放課後の練習の時、聞くよ。
「駄目なんです。気になって、授業に集中出来なくて。」
「じゃあ、5分だけな。」
先生は私にタイムリミットを設定した。
「この…ここのところ、どういう意味ですかぁ?」
私は精一杯の可愛さを絞りだす。
「はぁ……。前説明しただろ。これは、会えなくて苦しい、でも運命には逆らえない。」
「あ、そうですよねぇ。」
私は真剣な目を作る。