死神はしばらく黙り込み考えている。
「鎌ヲドカセ。ケルベロスガドウナッテモイイノカ?」
秀明がそう言うと、死神は鼻で笑った。
(…?…なんだ?頭おかしくなったか…?)
「アハハハ!お前にケルベロスはやれないだろ?」
「ナッ…!ナンダトッ!」
今まで無表情だった顔が一瞬怯んだ。
「お前にケルベロスはやれないと言ったんだ。もちろん…この俺もね。」
勝ち誇るように断言した死神は鎌を振り下ろした。
何のためらいも無く。
そして、僕の金縛りも解ける。
「なに…何やってんだよお前はっ!どーすんだよ!奈々に…何て言えばいいんだよ…。」
僕の瞳から涙が溢れだす…。
心臓はバクバクして吐き気が込み上げる。
ためらいも無く、鎌を振り下ろした時の死神の顔が目に焼き付いて離れない…。
死神の本性がむきだしになった瞬間…。
「大丈夫だよ。それは秀明の分身だ。」
ケロッとした顔で僕を見下ろす。
「うそ…。」
「嘘ついてど〜すんだよ。俺が考えもしないで鎌を下ろすと思うか?」
確かにそうかも知れない。
あの時、秀明そのものなら死神は鎌を下ろさなかっただろう。
ふと横を見ると、秀明らしき人物はいない…。
やはりあれは分身だったらしい。
冷静に考える…。
死神は何故…分身だとわかったのか…。
「なぁ…なんでわかったんだ?分身って…?」
「秀明の妖力にしちゃ弱いし…。金縛りなんて、あいつの力なら俺にだってかけられるだろ?なのに俺はかからなかった。妖力が弱いから、1つの術しかかけられないんだよ。」
(こいつ…頭いいな…。)
「それに…奴らが狙ってるのはハーンだし…。」
チラっと僕を見てため息をつく。
「えっ?俺?」
僕は眉間にシワを寄せ、死神の顔を見た。
「そうだよ。なるべく無傷で手に入れたいんだよ。」
「何で?!」
気持ち悪い…。
胸の奥でそう思う…。
「奈々の父親は、お前達のその巨大な魔力が欲しいんだよ…。今後の為に。」
「お前達って…エリンもライアンもか?!」
僕は何が何だかわからず、死神に食ってかかった。
「…そうだよ。だから、早く助けないと…。」
険しい表情…。
事は深刻になってきてる。
早く助けないと…。