エイとは、小学生からの幼馴染みだった。
あいつの実家は酒店を営んでいて、店の手伝いもする、しっかりした奴だった。
俺は、エイが羨ましかった。
温かい家族がいて、真っ直ぐに両親の愛を受けて育ったエイ―。
それとは反対に、俺の家は殺伐としていて、冷たかった。
親父は、議員の職務や付き合いで、なかなか帰って来ない。
そんな父に愛想をつかして、母は他に男を作っている。
誰も、本当の俺を見ようなんてしない。
欲しいのは、後継ぎに相応しい、できのいい息子だ。
でも、幸いなことに、歳が1つ離れた妹がいた。
雷華郁子(ライカイクコ)、俺は郁(イク)と呼んでいた。
郁は家庭を顧みない両親に絶望して、あまり家には寄り付かない。
たまに着替えを取りに帰ってくるくらいだ。
ミネラルウォーターを冷蔵庫の前で飲んでいると、玄関のドアが閉まる音がした。