馬鹿師

吉尾ヤスハル  2009-10-13投稿
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今はもう昔の事だが、ある山の麓に、ひ弱な男と、綺麗な女が中良く暮らしていた。

ある日、二人が家にいる時に、豪族の男が力付くで女を奪って行った。

「妻を返してくれ」

男は腹に深い傷を負いながらも、女が見えなくなるまで、叫びつづけた。

翌日、豪族の屋敷に乗り込もうとする男を友人が必死に止めた。

「あそこに行って生きて帰って来た奴は一人もいねえ」

「残念だがかみさんは諦めるしか」

「そうだぜ。馬鹿なことは考えるな」

「そうだぜ。オッサン」
その時、いつからそこにいたのか?若い女が話に加わってきた。

「どちらさま?」

一人の男が聞く。

「旅医者だよ。治すもんは少し違うけどね」

男たちは一同に眉をしかめた。

「姉さん、こっちの治療は終ったよ」

また違う声がした。少年の声だ。
しかし辺りには誰もいない。

そうこうしている内に、妻をさらわれた男の横から、少年がひょっこりと顔を出した。

「いつの間に!」

男たちは驚き飛びのいた。

「さっきからずっと居たよ。傷の手当もしないで、殴り込みなんて。おじさん、馬鹿?」

そう言う少年の手には、血の付いた布や消毒液の瓶があった。



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