｢傷を治してくれたのは礼を言う。でも妻は私にとって大事な人なんだ。私が行ってやらなければ｣
男はそう言って皆の制止も聞かずに豪族の屋敷へ向かって歩き出した。
友人やたちは男の後ろ姿をただ黙って見守るしかなかった。あの気弱な男が、愛する妻のために、危険に立ち向かうのだから。
豪族の屋敷は小高い丘の上に建てられていた。門の前には２人の番が目を光らせている。
男はそんな所に堂々と向かって行った。と、その時だった。
｢待ちなって｣
男の前に先ほどの２人が現れた。
｢さっきも言っただろう。止めても無駄だ｣
男は足を奮わせながらも、強い眼差しを２人に向けて言った。
｢その様子じゃあ、あの女の素性を語っても信じないだろうね｣
女は呆れたようにため息をはいた。
｢仕方ない。手を貸してやる。その目で真実を見れば自分が馬鹿だったって気付くだろ｣
｢さっきから何を言っているんだ？君たちがそこまでする理由は何だ？｣
｢僕には何の理由も無いけど、姉さんがちょっとした変わり者で。お節介好きだと思ってくれればいいよ。事が片付いたら教える｣
少年は意味深な言葉を残すと、屋敷の塀の方へ向かった。
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