がく、さい 第五場 〜川上さんの話〜

あこ  2009-10-14投稿
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顔をあげると、そこには見馴れた、甘い顔がいた。甘くて甘くて、胃もたれしちゃうぐらいの。


「具合悪いの?」


後藤は私の顔を覗き込む。前髪が鼻先に当たって、くすぐったい。


「何それ。」


「何って…?」


私は後藤の前髪を掴んで顔を思いっきり持ち上げた。

「痛いっ…何するんだよ、」


「川上さんって何よ、しらじらしい!」


気付いたら大声を出していた。

「だって、君が……」


「やめてよ、君なんて。」

「じゃあ何て呼べばいいんだよ。実緒もやだ、川上もやだ、結局、君は我が儘が言いたいだけなんだ。」


後藤は今まで聞いたことのない声で呟いた。

低く、くぐもった声。


「じゃあ呼ばないでよ!もう私に話し掛けるな!」


私はヒステリックに叫ぶ。

喉が痛い。渇いた。甘いものが飲みたい。


後藤は一瞬、目を細めて泣いてるような、睨んでるような、顔をした。

そしていつものように前髪を直し、目が見えなくなった。

「わかったよ。」


聞き慣れた声で言った。

顔は見えない。


自販機の前に、私は一人座っていた。

牛乳を飲む。

「苦い……」


半分ぐらい残った牛乳は鳴咽とともに私の喉に流されていく。

白くて、苦い液体が通っていく。

渦をまいて。私は耐え切れず吐き出した。

そして丸くなって、お腹が溶けていくのを感じた。胃も骨も、全部、ぐるぐるになって溶けちゃえばいい。

最後には私はなくなって、白い液体だけが残る。


それでいい。



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