顔をあげると、そこには見馴れた、甘い顔がいた。甘くて甘くて、胃もたれしちゃうぐらいの。
「具合悪いの?」
後藤は私の顔を覗き込む。前髪が鼻先に当たって、くすぐったい。
「何それ。」
「何って…?」
私は後藤の前髪を掴んで顔を思いっきり持ち上げた。
「痛いっ…何するんだよ、」
「川上さんって何よ、しらじらしい!」
気付いたら大声を出していた。
「だって、君が……」
「やめてよ、君なんて。」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ。実緒もやだ、川上もやだ、結局、君は我が儘が言いたいだけなんだ。」
後藤は今まで聞いたことのない声で呟いた。
低く、くぐもった声。
「じゃあ呼ばないでよ!もう私に話し掛けるな!」
私はヒステリックに叫ぶ。
喉が痛い。渇いた。甘いものが飲みたい。
後藤は一瞬、目を細めて泣いてるような、睨んでるような、顔をした。
そしていつものように前髪を直し、目が見えなくなった。
「わかったよ。」
聞き慣れた声で言った。
顔は見えない。
自販機の前に、私は一人座っていた。
牛乳を飲む。
「苦い……」
半分ぐらい残った牛乳は鳴咽とともに私の喉に流されていく。
白くて、苦い液体が通っていく。
渦をまいて。私は耐え切れず吐き出した。
そして丸くなって、お腹が溶けていくのを感じた。胃も骨も、全部、ぐるぐるになって溶けちゃえばいい。
最後には私はなくなって、白い液体だけが残る。
それでいい。