神のパシリ 2

ディナー  2009-10-14投稿
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人間が、神に挑むかの如く天へ向け築いた、ビルという名の塔の上。

ゼルは、そこから街を見下ろしていた。

血のような赤い瞳は、苦しみ悶える人間達を映している。

鋼鉄の建物が乱立する街のあちらこちらで、人という人が悶え、苦しみ、ゼルと同じ色の液体を吐きだし死んで逝く。

死んで逝く。

死んで逝く。

ゼルの表情は、瞳の色は陰っていた。
同じ見た目の存在が死んで逝く姿は、いつ見てもいい気分ではない。

天秤を釣り合わすための、
虐殺という名の清算。

死の神の福音。

この街は、栄えすぎたのだ。
人はより長く生きる術を覚え、死から逃れようとした。
死を免れようとした。

生がある限り、死も存在する。

人はそれから目を背けた。

死への冒涜を、死の神は許しはしない。

他の神が、全能神がどう考えているかは知らないが、これが我が主の望みなのだ。

生死の天秤は、釣り合わねばならない。

ビルの端から、タイトなレザーパンツに包まれた足を投げ出し、
同じくタイトなレザーライダースコートのポケットから、煙草を取り出し火をつける。
煙草は、実に有意義な存在だ。
だるい体をニコチンがごまかし、ぼんやりした曖昧な感覚に身をたゆたわせられる。

惨劇を目の当たりにしながら、その光景へ紫煙を吹いた。


その時。

「…ゼル、今どこにおるのじゃ」

ゼルの左耳にぶら下がる揚羽蝶のピアスから、幼い印象の女の声。

「下界の街、バベルです」

「そうか、撒いたのだな、あれを」

「はい」

「して、どうじゃ、効果のほどは?」

「問題ないかと。間もなく街は死滅します」

話し相手は、嬉々とした声になる。

「そうであろう。あれは、わらわが最も気に入っておる疫病体だからのう。頑張って二百年かけて育てたのじゃ。」

「…さすがでございますな」

「当然じゃ。…だが人間もすぐに抗体を作るであろう。ものの十年もすればな。そうしたら、またわらわは別の手段を作らねばならぬ」

「…心中、お察しいたします」

「まあよい。…してゼル、お前を一度冥土戻そう。新しい用事ができた」

「…御意のままに」

刹那の後。
ゼルの背後に、巨大な門扉がせりだしてきた。

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