思い出 ?
そんな栞の思いも知らずに、謙介は又、昔の事を思い起こしていた。
謙介の家と小学校のほぼ中間に『金光寺』と言う寺が有った。
4年生になったばかりの5月のある日。謙介と亜紀は、金光寺で道草を喰っていた。
金光寺の裏には、大小様々な墓が並んでいた。
その一番奥に、5M四方位に、石垣と塀が張り巡らされた、立派な墓が有った。
2人は、その墓の周りを走りながら、追い駆けっこをしていて、亜紀が敷き石につまずいて、転んでしまったのだ。
「痛い〜」
亜紀は、声を出して泣き始めた。
「亜紀、大丈夫か?」
謙介は、優しく亜紀を抱き起こした。
亜紀は、膝と腕を擦りむき、少しだけ血が流れていた。
謙介は、亜紀を連れて、墓のすぐ横にある、水田の畦まで降りて行った。
そして、手のひらで水田の水を汲むと、傷口の血を洗い流してあげた。
そしてポケットからハンカチを出して、優しく拭いてあげたのだ。