「うむ、では本題じゃ」
幼く、それでいて妖艶さも持つ死の神の瞳が、ゆらりと神々しく揺れた。
疫病による虐殺か。
要人暗殺による混乱か。
戦争扇動による大破壊か。
ゼルは溜息が出るのを堪え、目の前にいる少女の眦を見つめる。
「…調べて欲しい事があるのじゃ。」
「調べる…?」
死の神らしからぬ、曖昧な言葉にゼルは赤い瞳を丸くした。
「…らしくないですね。何です?」
「それが…
わらわにも、よう分からんのじゃ」
どういう事だ?
怪訝な顔のゼルに、死の神は可愛らしい小さな口で説明を始める。
「ある街で、殺人が起きておる。荒んだ、いかにも人間の末路を感じさせる街じゃ。殺人が起きるのなど当たり前の、理性を無くした、人の形の獣の街、なのやも知れぬ。
別にわらわが関与すべき事ではないと思うておった。
だが、どうやら調べる必要がある。
その街で、百近く死人が出ておるのだが…
奇妙な事に、魂が冥土に来ぬ。
おぬしも知っていよう。人は死ねば、肉体という器が世界に残り、魂は冥土に渡る。その浄化と転生をわらわが司るのだからな。
だが、その街の死者の魂が来ぬのじゃ。
神の暇潰しの産物である人間ごときが、魂の規律を左右する力があるはずもない。
もし、力があるのなら、魂の冒涜、わらわへの挑戦じゃ。
おぬしにはそれを調べて欲しい。
おぬしの報告を聞いたのち、しかるべき手を打とう」
いつの間にか現れた、自分用の大きさの玉座に腰掛け、ゼルの見解を待っている。
「…分かりました」
「よいかゼル。用心せよ。人外のモノであれば、わらわの分け身であるおぬしでもどうなるやわからん」
「…稀に他の神の小間使いに邪魔されておりますから、心得ております」
他の神も分け身を持っている。
悪神、邪神の類に巻き込まれなかった神々などは、分け身を
『世界に福音、至福をもたらす者』
として放っている。
死の神のため人間世界では極力人間として世界で過ごしているゼルだが、
稀にそれが暴かれ、分け身同士の争いになる事もある。
「できるか、ゼル?」
「…無論、御意のままに」