「川上さん!?大丈夫??」
「先生、こっちです!」
「おい、川上、どうした?」
頭の中で色々な声が聞こえた。
「瀬戸ちゃん?」
私は呻くように言った。
そしてそのまま、深い泥の中に吸い込まれていった。
次に目を開けると、見馴れない天井があった。
「真っ白。」
そこは四方を壁に囲まれた白くて、清潔という言葉しか出てこない程、無個性な部屋だった。
そこが病院だと気付くまでに、暫くの時間が必要だった。
私は身体を起こそうと試みる。だけど、上手くバランスが取れずにもがくような形になった。
「痛っ……」
下腹部に鈍い痛みを感じた。
「ダメだよ、まだ起き上がっちゃ。」
そこには、子犬のような目をした女の子がいた。
「瀬戸ちゃん。」
声が掠れる。
唐突に、喉の渇きを感じる。
「盲腸だって。薬で散らすから、手術は要らないらしいよ。」
それが自分に向けて放たれた言葉だと理解するのに、私はまた時間がかかった。
大丈夫。頭は正常だ。ただちょっと、ぼやけているだけ。
「今先生がご両親に連絡してるから。」
私は頭にそれを染み込ませてから、小さく頷く。
部屋の隅に、大きな塊がみえた。
「後藤……」
彼は何も言わず、ただ私を見てた。
「後藤くんが初めに気付いたんだよ、川上さんが倒れてるの。で、先生とか呼んでくれたの。あんな必死な後藤くん、初めて見たよ。」
瀬戸ちゃんはそう言うと小さく笑った。
「…何か飲みたい。」
掠れた、可愛くない声が出た。
「あ、うん。じゃあ水貰ってくるね。」
瀬戸ちゃんは慌ただしく出ていく。性格が良いのだ。私と違って。
後藤と私はその白くて狭い部屋で、長い間沈黙の中にいた。
もしくは長く感じただけで、それはほんの一瞬だったのかもしれないけど。
「ごめん。」
空間を裂いて後藤の声が響く。
「……何で謝るの。」
「様子おかしかったのに、気付けなくて、ごめん。」
彼は小さく、小さく、言った。