が、くさい 第七場

あこ  2009-10-16投稿
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私は今、先生の車に乗っている。助手席に私。後部座席には川上さんと、後藤くん。川上さんは意識も朦朧としてるみたいで、後藤くんの膝に頭を乗せて、横たわっている。

眠っているようにも見える。

長く伸びた睫毛が影を落とし、まるで死んでしまったジュリエットのように、とても綺麗。

時折、お腹が痛むのか、眉をしかめる。後藤くんはそのたびにハンカチで汗を拭いてやっている。

前髪から覗く目は、不安げで今にも泣きだしちゃうんじゃないかってぐらい、赤く潤んでいた。


反対にハンドルを握る先生は、いつもと変わらぬ飄々とした表情で、それでもたまにバックミラーごしに川上さんの様子をチラチラと見ていた。


車内は口を開いたらいけないルールがあるかのように、静かで、たまに川上さんの苦しそうな、声にならない声が聞こえるだけだった。


私達は車中、ほとんど会話を交わすことなく、病院に着くまでに先生が二本、煙草を吸っただけだった。

私は先生が煙草を吸うなんて知らなかったし、見たこともなかったからびっくりしたけど、また「大人」を見せつけられてるみたいで、少し心が痛くなった。



川上さんは盲腸だった。
まだ薬で散らせる段階だから、手術は必要ないけど、二、三日は入院が必要とのことだ。


点滴を打たれた川上さんは、そのまま眠ってしまった。後藤くんはずっと、川上さんの傍を離れなかった。


先生は廊下で、川上さんの両親に連絡をしてる。


「ちっ…繋がらないな。」

先生は焦るでもなく、小さな舌打ちをした。


「瀬戸、先帰っていいぞ。何時になるか分かんないし。」


繋がらない携帯電話を睨みながら先生は言った。


「大丈夫です。部活もないし…。」


「そっか。」

「はい。」


先生はやっと携帯電話から目を離し、私の方を見て言った。

「なんか飲む?」


「あ、はい。」

「何がいい?」

「一緒に行きます。」

私は子犬のように立ち上がり、先生の後ろについていった。

短い尻尾を一生懸命振りながら、置いていかれないように早足で歩く。

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