子供のセカイ。77

アンヌ  2009-10-16投稿
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覇王はそっと舞子の肩に手を置き、顔をのぞきこんだ。こうすると舞子は言うことを聞く場合が多かった。
案の定、幼い少女は頬をりんごのように真っ赤に染め、恥ずかしそうに首をすくめた。
覇王はわざと舞子の耳元で直接囁いた。
「いいかい、舞子。僕たちには今日まで、ずっと大事に温めてきた計画がある。それを達成しなければ、君は真に幸せにはなれない。……これは、わかるだろう?」
「……うん。」
「そのために、君のお姉さんは邪魔な存在なんだ。」
舞子はぴくりと肩を揺らした。震える両手をぎゅっと胸の前で握り締める。
覇王はチッと舌打ちしたくなるのを懸命に堪えた。舞子は思い切りのよい少女だったが、流石に姉を他人の言う通りに消すような悪玉ではない。
そもそも舞子は悪者ですらなかった。――本当に、ただ、純粋なだけだった。
「……お姉ちゃんを、向こうの世界に追い返すだけじゃダメなの?」
舞子はようやく蚊の鳴くような声を絞り出した。
「ダメだ。それじゃあ、きっとお姉さんはまた“子供のセカイ”に戻ってきてしまう。」
「で、でもっ!…ころ、殺すなんてできないよ!!」
舞子は叫んだ。悲鳴のような声はかん高く響いて、天井にぶつかって消える。
部屋にはしばらく沈黙が落ちた。
覇王はあえて何も言わなかった。それから、十分な間を持たせた上で、くるりと舞子に背を向け、部屋の入り口に向かって歩き出した。
「……覇王?」
不安げな舞子の声音にほくそ笑むと、覇王は真面目な顔を装い、首だけ舞子に振り向いた。
「君ができないなら、僕が代わりにやる。――僕は舞子のために存在しているのだから。」
そして舞子に反論を言う隙を与えず、部屋を出てパタンとドアを閉じた。
背後からドア越しに舞子のすすり泣く声が聞こえた気がしたが、覇王はそれが風の音であるかのように気にもせず、大股で舞子の個室から去っていった。
これで準備は整った。計画はあと少しで完成するし、邪魔者は覇王の手によって消える。
「……ふふふっ。ふはははははっ!」
城に住まう他の舞子の臣下たちは、側近である長身の男がやけに上機嫌な様子で高笑いするのを、不気味なものを見る目付きで恐ろしげに眺めていた。

一方。城のとある一室では、片膝を抱えて青い石机に座り込んだ小さな子供が、顔をうつむけて呟いた。
「……まだか、耕太。」

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