翌朝、塚本は昨日より早く家を出た。
手には、CDを聞ける音楽機器を持って。
「これをあの子に聞かせよう。きっと、歌をあまり知らないんだな。
でも、透き通るそれでいて芯の通ったとてもいい声をしていた。
温かくて優しいようで、深く悲哀のこもったようなー。
きっと、彼女自身の心なんだな。」
「それと、彼には、ま、これをあげよう。」
そう言って、一枚のポストカードをノートに挟み直した。
みことば付きのポストカードであるが、それには、
「すべて重荷を追っている者、疲れた者は私のところに来なさい。
私があなたを休ませてあげよう。」
と書いてあった。
施設につくと、またばったりと彼に会ったので、
「はい、これ。」
と手渡すと、彼はしばらくその文を繰り返し読んでいて、
「ありがとう!ありがとうございます!」
と、喜んで走り去って行った。
「きっと、疲れているんだなー。彼も。
たまたまノートに挟んであったから選んだのだけど、あんなに喜ぶなんて。神は何もかもご存じ、ってわけか。」
塚本はひとり言のようにつぶやきながら、中庭に入った。
「今日もいてくれたらいいんだけど。」
持ってきたCDとデッキを手にしながら、塚本は昨日の敷地へと歩いて行った。
そこには、彼女は、まだ来ていなかった。
まだ、という表現が正しいのかはわからないけども、塚本には、きっと来る、という確信のようなものがあった。