僕は自分のことが嫌いだ。
顔も頭も良くないし、優しくも、ましてやいい人でもない。
偽善者。
僕にぴったりの言葉だ。
昔から自分が嫌いだった訳じゃない。自信に満ち溢れていた時もあった。友達だって少なからずいたし、好きになってくれる女の子だっていた。
でも全て消えてしまった。
人間はいとも簡単に人を裏切るということと、どこまでも残酷になれるということ、そして、一度失ったらもう二度と同じところにはいけないということを知った。
僕は人が信用できなくなった。
人を信じなくなったら、自分のことも信用できなくなった。
僕は人が嫌いになった。
人を嫌いになったら、自分のことも嫌いになった。
そして今の僕がいる。
人と関わらないように前髪を伸ばし、下を向くようになった。
相手を逆なでしないように「ごめん」というのかくせになった。
要するに僕は逃げているのだ。僕は逃げるのが得意だ。癖になっている。既に。
でも、僕がどうしても逃げられない人がいる。
二人。
一人は幼なじみの川上実緒。幼稚園からの付き合いで、家族ぐるみで仲良かったから実緒は僕の姉であり、妹だった。
小さな頃は実緒は僕と遊びたがって、無理矢理人形遊びやままごとをさせられたりした。僕は野球がやりたかったのに。でも、僕に懐いてくる実緒を可愛いと思った。僕もまた、実緒がいた事で助けられていた。
中学で僕は私立の進学校に行き、実緒は地元の公立に進んだ。僕達はお互いの家に行くことも話すことも少なくなった。そういう年頃だったというのもあったのかもしれない。
それでも、高校がまた一緒になり、やはり実緒は大切な人だと気付いた。
実緒から逃げることは僕には出来ない。実緒は真っ直ぐで、思ったことは何でも口にするし、ヒステリックなところもあるけど、僕を無視したり馬鹿にしたりはしなかった。そして、僕は実緒の我が儘を今でも可愛いと思う。
実緒は特別。それは決して恋愛感情ではないけど。
もう一人の逃げられない人は、僕の憧れの人。
僕にないものを持っていて、僕とは真逆のタイプの人間だ。
もう人と関わりたくないと思っていたのに、僕は……。