久しぶりに聞く声だった。
なんだか、懐かしく、
こころすり抜けるような、
柔らかく、透き通るような。
なんて優しい人なんだろう。
声だけ聞いていて、
その人の人柄がわかる。
そして、声を上げる時の抑揚の仕方、
和らげる時のブレス使いが、
「そう、昨日の彼女に似ているんだよな。」
それが、塚本のこのCDを持ってきた一番の理由だった。
ふと横を見ると、
扉から顔を出した彼女の、いつもの木に向かおうとしている姿だった。
はっ、と塚本のいるのに気がついて、一瞬扉に戻ろうとしたが、
音楽が聞こえて、ふと足を止めた。
塚本に警戒しようかどうしようか、迷いながらも、
彼女の心が、曲のほうに惹かれているのがわかった。
それでも警戒したままで、その場に立ち尽くしている。
塚本は、「やれやれ」と思い、
その場でごろん、と横になった。
動物が、降参です、と仰向けにお腹を出すように。
敵ではないですよ、と主張するように。
結構アウトドア派の塚本ではあったが、
それでも芝生の上で横になるのは久しぶりだった。
あ、芝が背中にチクチク刺さるな。
太陽が、思ったよりも眩しく感じる。
あー、干し草のような。
布団が日に干されているような。
猫の日向ぼっこのような。
そんなことを思いながら、すっかり心地よくなってしまった。
はっ、と気がついた時には、
2回めのCDが、終わりのプロローグを流しているところだった。
「あぶね、すっかり、寝入ってしまった。」
と横を見ると、
始め、十数メートル先に立っていただろう彼女が、
5メートル程先のとこに、
デッキに耳を当てるようにして、片方の頬を芝生につけて、目を閉じていた。
子猫が、親猫の足元で安心して休むように丸まっていた。
「歌が好きなんだな。」
彼女を覆っている武器がすべて剥がれ落ちたように、
うたを歌っている時の彼女はすごく自由だった。
それから、塚本と彼女の長い忍耐のいる日々が始まった。
(注意・歌い手の評価は、あくまでも作者が執筆用に書いたもので、実際のアーティストとは違う所があります。)