それは小さな動物園の片隅の、小さな檻の中の、小さなハリネズミのお母さんの物語。
可笑しかったら笑っておくれ
哀しかったら泣いておくれ
檻の中には小さなハリネズミのお母さん。
今日も我が子に話しかけながら毛繕い。
「本当に可愛い私の赤ちゃん。あなたはとっても難産で、あなたを産む時、母さんちょっと気を失っちゃったけど、でも目が覚めたらちゃんとあなたがいて、母さんすごく嬉しかった。
寒い朝には母さんが温めてあげる。
眠れない夜は子守唄を歌ってあげる。
遊びたい時は一緒に遊んであげる。
いつもそばにいてあげる。
あなたはいつも寝てばっかりだけど…
いいのよ、今日も安心してゆっくりおやすみなさい。
いつも母さんが守ってあげるから。」
ハリネズミのお母さんは毎日毎日そう話しかけていました。
ハリネズミのお母さんはとっても幸せでした。
ところがある日、大事件が発生しました。
「あら大変!爬虫類館から大きな蛇が逃げ出したんですって!今、檻の前を通った飼育員さん達が話していたわ。でも、怖がらなくて大丈夫よ。もしそんな蛇が来たって、私があなたを守ってあげるから。だから安心して今日もゆっくりお寝んねしてね。」
でも、3日たっても4日たっても蛇は捕まらない様子で、動物園中を飼育員達が探し回っていました。
そんな5日目、ハリネズミのお母さんのいる檻の、いつも飼育員が餌を入れてくれる小さな扉がカタッと開きました。
餌の時間にはちょっと早いな、と思ったハリネズミのお母さんが見たのは、巨大な蛇の頭でした。
蛇は口から二又に割れた真っ赤な舌をチロチロと出しながら、ハリネズミのお母さんから目を離さずに、その巨体をスルッと檻の中に滑り込ませてきました。
ハリネズミのお母さんは子供の前に立ち、蛇と対峙しました。
「心配しなくて大丈夫よ。母さんがあなたを守ってあげるから」
そう言ったハリネズミのお母さんは、声も足も震えていました。
蛇はゆっくりと鎌首を持ち上げました。その高さは見上げるほどで、檻の天井にとどきそうでした。
「でも、ゴメンね…母さん、あなたのそばにずっとはいてあげられないみたい」
蛇がハリネズミのお母さんに襲いかかりました。