『猫はお母さんが嫌いだったから
いいや』
彼女の顔が曇る
「お母さんは…どんな人だった?」
『優しかった
でも弱かった
きっといっぱい疲れてた
私のせいだね』
「…俺はゆかのお母さんに
感謝してるよ
ゆかに出会えたのは
あなたのおかげですって
ありがとうって
…きっとゆかのこと
いっぱい考えていたんだよ
ゆかのことに一生懸命だった
それだけゆかが大事だったんだ」
彼女の表情はただ穏やかだった
「ゆか…今まで寂しい思いを
しただろうけど
手術が終わったら
俺がそばにいるから
まあ…忙しいからどっちみち
寂しくさせるかもしれないけど…」
彼女はまた笑ってくれた
『大丈夫。ポチがいる』
「ポチ?」
『ワンちゃん
ポチって名前にする』
「普通すぎない?」
『いい。普通が一番幸せ』
そう…彼女がいる
それだけで俺は幸せなのに
『拓也が帰ってきたら
おかえりって言ってあげる』
「うん」
そんな幸せ、
本当に待っているのか
『でも今日は私が行かなきゃ
今日は拓也がおかえりって
言ってね
明日かもしれないけど
でも必ず帰るから』