ほんの小さな私事(121)

稲村コウ  2009-10-19投稿
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山下さんは、香取君に支えられた状態で、部屋の入り口の所までやってきて、部屋の奥に向けて手を伸ばした。
部屋の奥には、山下さんに取り憑いていた青色の靄がゆらゆらと揺れて漂っていた。
「その子は、あたしが何かに体の自由を奪われていた時、その間に入って、私を守ってくれていたの。そしてそこにいる、その子の子供たちを守っていたんだけど…だんだんと力をなくしていって…。そんな時に、あたしは、自分が少し、体の自由を取り戻せた時に、一度、この部屋から出て、誰かに助けを求めようとした…。でも、牧野さんを見つけた時に、意識が薄れていって…。」
なるほど。それが今朝、図書館の前で、私が山下さんを見た時だったのか。
「体の自由を奪われていた間は、その子が懸命に、あたしを守ってくれてた。でも、もう限界って感じになって、あたしが何かに支配されそうになった時、みんなが助けてくれたの。だけど…あの子はもう…。」
彼女はそう言いながら、香取君の支えを受けながら、部屋の奥へと歩いていった。
そして、青色の靄がある辺りまでゆき、青色の靄に手を差し伸べた。
するとその青色の靄は、弱々しく動き、まるで山下さんの手をさするかの様に纏わりついたかと思うと、次第に辺りに散り散りになり、その存在を消してしまった。



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