「今夜は鍋ですよ〜。」
あぁ、良いニオイ。カレーの。
「今日はカレー鍋よぉ。今年はこれに凝るから、二人ともよろしくね。」
なるほど、カレー鍋ね。
確か去年は豆乳鍋に凝ってて、やるたんびに吹かしてたなぁ。
あたしは顔も上げず、読書を続けながら鍋について考えを巡らせた。
「ちょっとぉ、あたし鍋はベーシックなのが良いって、言ったじゃない。」
晃が付け睫毛をパチパチさせながら言った。どうやら今から出勤らしい。最近は常連さんに好みの人がいるらしく、化粧も前より凝っている。
「うるさいわねぇ。晃はどうせ午前様じゃない。あたしと雨ちゃんがメインで食べて、あんたは朝方帰って来てゴキブリみたいに残飯あさるだけでしょ。」
夏君が土鍋を持ちながら晃に一蹴した。ふむ。たしかに晃は2時とかに食べることも多い。あたしもは何時まででも待ってあげられるけど、夏君は料理人?として作り立てを食べないのは駄目らしい。
夏君は料理上手なバルーンデザイナーで、結婚式やお店のウインドウに使われる風船のオブジェを作っている。
一度街中でブティックのウインドウを飾る夏君を見たことがあるが、その時の彼はお姉言葉ではなく、今時の所謂イケメンと言う人だった。
晃はプロのハープ奏者で、何とかハーモニーのメンバーだ。残念ながらあたしはよく知らない。
普通プロの音楽家は、講師や音楽教室の先生をしてコンサート以外の日々を稼いでいるらしいが、晃は夜の蝶(本人いわく)で稼いでいる。人が酔って行くのを見るのが好きなのだそうだ。
二人はお互い別々にうちに転がり込んできた。夏君はあたしの元カレの友達から聞いて、晃は夜中のコンビニで偶然あたしの友達の会話を聞いてうちにやってきた。
両親と兄が神隠しにあって、高校生が一人で住んでる子がいるお寺がある、と聞いて。