美香は胸に手を置いて呼吸を整えた。ホシゾラは少し不安そうな顔をしていた。
「気分は治まったかしら?大丈夫?」
美香のことを心配してくれているのだろう。美香は逸る気持ちを抑えながら、なんとかまともな返事を返した。
「もう大丈夫です。ありがとう。それより、“闇の小道”への扉が封鎖されてるっていうのは本当なんですか?」
ホシゾラの表情がいっそう曇ったのを、美香は見逃さなかった。
「……ええ、そうよ。」
胸が重い石で塞がれた気がした。息が詰まってうまく呼吸ができない。では、一体美香は何のためにここまで旅をしてきたというのか。耕太を助けられないなら、すべては無意味だというのに……。
美香はわずかな希望を拳に握り締めて、ホシゾラに迫った。
「で、でも、山姥のおばあさんは言ってたわ。私が何か犠牲を払えば、耕太を助けられるって…!」
「……。」
ホシゾラはぐっと言葉につまった顔をして、ゆっくりとベッドに腰かけた。うつむいた顔がよく見えない。ただ、手を置いた場所のシーツに鋭いシワが刻まれているのを見た時、美香はホシゾラが何かを隠していることを悟った。
美香もホシゾラの隣に座った。ホシゾラの、大人にしてはほっそりとした小さな手に、自分のたくましい、まめのできた手を重ねる。美香はその容姿から綺麗な手をしていると思われがちだが、実際は家事の手伝いや運動好きなことや舞子の狂暴な想像たちと戦うことなどのせいで、がっしりとした手のひらをしていた。
ホシゾラはぴくりと震えた。氷のように冷たい手に、美香は少し驚いた。寒いのだろうか……?
「ホシゾラさん。」
「……。」
「方法があるなら、教えて下さい。私は何だってするから。耕太は命をかけて私を“闇の小道”から出してくれたの。――今度は、私が命をかける番だわ。」
ホシゾラはじっと美香の目を見つめた。真偽を天秤にかけるように。深い海が、美香の中に流れ込むようにして本心を探っていた。
怖くない、と言えば嘘になる。しかし耕太を助けられるなら自分が持っているものをすべて差し出す覚悟はあった。それこそ、ジーナが言ったような『自分を傷つけられる覚悟』なら、美香はいつでも持っていた。
ホシゾラは美香の瞳の中の強い意志を感じとると、諦めたように、ふぅ、と息を吐いた。