神のパシリ 9

ディナー  2009-10-20投稿
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人間か?

だが、人間の声にここまで戸惑った事はない。

ゼルの背後に、フードを被った少女が立っていた。おそらく声の主だろう。

何故だ。身体が、器でしかない身体の奥が震える。

「…お前…何者だ…」

そこまで口走り、ゼルは我に返ってレミエルを見た。

レミエルは忌ま忌ましく卑しいくびきから解き放たれている。手をひきちぎり、槍で薙ぎ払い、脚で踏み潰し。

一瞬の機会を、ゼルは逃したのだ。

「…ちっ」

ゼルは、レミエルを仕留めるのを諦めざるを得なかった。

レミエルが、既に彼へ槍を投擲していたからだ。


それは、もう…

  かわせない。

ぐしゃりと音がして、槍はゼルの体幹を刺し貫いた。

その勢い、衝撃でゼルの身体は後ろへ跳ね、少女の近くの瓦礫に貫いた槍先が突き刺さる。

「フェルゼル兄っ!!」

慌てた様子で少女が駆け寄る。

ゼルとて、身体そのものは人と同じ。血の詰まった肉の袋である。
腹部から激しく血が溢れ、吹き出し、少女をみるみる赤く染めた。

「…ま、ずいな…」

ゼルは槍先を瓦礫より抜き、身体に刺したまま前のめりにひざまづいた。

「…薄汚いパシリが!辱めの報いと共に、私が裁いてやる!」

一歩、また一歩、レミエルが近付く。

その前を、少女が塞いだ。

「や、やめろっ!」

華奢な脚が震えているのが、霞んだ瞳でも分かる。

こういう大事な時に限って、死の神からの援護はない。仕留めたとふんでいるのだろう。

それとも、ゼルにさして執着がないのか。

ちなみに、こちらからの一方的通信はできない。

レミエルは、おそらくこの少女など気にも留めていない。通り道の小石と同じだ。

「…さぁ、死ね」

レミエルの背後に見える、使用済みの魔法陣。

ふと、ゼルがそれを見た、その時。

「…ゆけ!早う退け!」

冥土に住まう少女の声が耳飾りから大きく響いて、

彼方の魔法陣から、再び腕が伸びる。
しかし今度は卑しい亡者のものではない。
もっと強大で、忌まわしい、しっかりした存在だ。

それはレミエルを鷲掴みにし、瓦礫へと叩きつける。

本当に、一瞬の事だった。



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