私は、お兄ちゃんがあなたを気にし続けたり、最終日に連絡先を渡したりしたと聞いた時は教え子を心配するという域を越えているような気がしていた。
でもお兄ちゃんは私と歳が同じだから、私みたいに友達とお喋りして笑ったりしないあなたが、お兄ちゃんと質問のあとに本の話を楽しそうに出来る事が分かって、誰とも話が出来ない訳じゃないあなたが今どうしているかが気になるだけだと言っていた。
それをそのままみずきに話した。
「やっぱり、藍田さん昔、何かあったんだろうな。」
彼女は、腕を上に挙げて伸びをした。
「お兄さんからの伝言、藍田さんに必ず伝えてあげなきゃだね。」
そう言ってみずきは微笑んだ。
完全下校を告げる放送がドビュッシーのアラベスク第一番をBGMに流れた。
「藍田さん、お兄さんに電話かメールしてくれるといいね。」
「その前に藍田さんを見つけないと。居ない時の方が多いんだもの。」
私がため息を尽きながら話すと、天気がいい日の水曜日の屋上かな、とみずきは私も探すの苦労したと苦笑いしながら教えてくれた。
見回りの先生が教室に来て、私達は慌てて帰り支度をして急ぎ足で教室を後にした。