がくさ、い 第五場〜後藤くんの話〜

あこ  2009-10-22投稿
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授業が終わると、遠藤さんは「ありがとう。」とにっこり笑って、机を離した。

たった60分の授業が、僕には二時間にも、永遠にも感じた。

机が離れ、僕はやっと緊張の糸がとけた。無意識の内に肩は張り、身体を左の窓にくっつけていたようだ。


「はぁ〜………」

僕は誰にも聞こえないぐらい小さくため息をついた。遠藤さんはそんな僕の様子にはお構いなしで、短い休み時間を存分に楽しんでた。彼女の周りは人で溢れている。いつも。


放課後、学級委員の僕は改訂された台本を職員室に取りにいった。

ノックをする。


すると、秋谷先生と遠藤さんは何か話していた。きっと小説を返して貰いにいったんだろう。けど、やたら二人の距離が近くて、僕は見てはいけないものを見た気がしていた。

遠藤さんが先生の肩に手を置き、顔を近づける。そして何かを囁いた。

先生はいつものポーカーフェイスを崩さずに、しかし素早く、彼女の手をはねのけた。遠藤さんは声を出さずに笑い、身体を少しくねらせ、先生を見た。

「もういいから、早く練習行け。」

先生はいつもと同じ声で言った。

遠藤さんはくるりと身体をひるがえし、僕の居る、ドアまで来た。


「あ、後藤くん。」

「え?」

遠藤さんは何事もなかったかのように出て行った。


先生はやっと僕に気付いたらしく、顔をこちらに向けた。

「後藤か、どうした。」

目を細めて言った。


「あ、台本…取りに……。」

「あー。そこ。まだまとめてないから、お願い。」

「はい。」

僕は先生に指された通り、山になった紙の束を抱え上げた。

重い。

バランスを崩し、足が縺れた。


「おっと……」

先生の大きな手が僕の腰に回された。

「気をつけろよー一人で大丈夫かぁ?」

先生は軽々僕を支えた。大人の男って感じだ。僕は何故か恥ずかしくなった。僕があまりに非力だからだろうか。

「大丈夫…です。」


紙の束を両手でしっかり持ち、職員室を出る。早くこの場から立ち去りたかった。先生と楽しそうに話していた遠藤さんの顔が、頭に浮かぶ。

彼女の大人びた笑顔。先生に向けられた挑発的な顔。

あれは、どういう意味だったんだろう。

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