三日目にして猫はどこかへ姿を消した。まだ子猫だったのでそう遠くにはいっていない。
・・・と、思う。
新居ということもあって、戸締まりは前よりも几帳面にやっていた。近くのコンビニへ行くにも、二重ロックしてたくらいだ。
だから、きっと部屋にいるはず。
家具やなんかは業者の人に据え付けてもらった。段ボールの散らかる室内で隠れるところは壁とその隙間くらいだ。
わざわざ買ってきた猫じゃらしを忙しなく振って呼んでみる。
「ねこ〜。ねこぉ」
名前を付けなかったことが早速仇になった。なんだかみっともない。これから付けて呼んでみても意味がない感じがして、やっぱり「ねこ〜」と叫ぶしかなかった。
一時間くらい続けると、変に不安な気持ちが湧いてきて、焦るようになった。残酷にも死を予感した。鳴き声が聞こえないから半分確信してた部分もある。
「はあ」
と一息ついてスゴく嫌な気分になってたときに、チャイムが鳴った。
出てみるとハゲ頭のおじさんが猫を抱いて出ていた。
「おたくの猫ちゃん?」
「・・・はい」
おじさんは目元に優しい笑みを浮かべていた。手元を見ると、猫の爪痕が白く筋になっていた。
「あ・・・。ありがとうございます」
慌てて猫を受け取ろうとしすると、おじさんの手の中で猫は小さい前足を突っ張った。
「いえ・・・はい。落とさないように」
受け取った猫は、今度は私のロングTシャツをよじ登ろうと腐心していた。
「よかった」
そう言ったのはおじさんだった。
「隣から猫を捜す声がしてて、ベランダに出たらこの子がいたから・・・」
その時気付いたが、おじさんは案外若い声をしていた。もしかしたら私と同じくらいの年かもしれない。
どちらにしろ、優しい人に見付けて貰えて良かった。何度もお礼を言った。
おじさんが帰った後にベランダの方を見るとサッシが開いていた。
それを見ながら頬を熱くしながら、猫に小さく「めっ!」と言ってみた。
彼は我関せずの様子でこちらを見ていた。
つづく・・・