私は、現在何処か遠い北国の町にあるビジネスホテルに身を寄せている。窓の外を見ると雪がチラチラと舞い降り、冬の荘厳な景色が綺麗だ。
冬を見るのも今年で33回目だ。おそらく、今年の冬が私の人生の中で最後の冬となるだろう。
私は。先程ホテルのルームサービスでデミグラスソースのかかったハンバーグとそれに添えられている野菜と温かいコーンスープとライスとグラス一杯の赤ワインを最後の晩餐として食べ終えた。
そして、今私の残された家族や知人に最後の私の気持ちを文字として残そうと紙に思いを綴っている。
「私は、今日まで役33年間うまれた時から生きてきました。私の人生は光に当たる事なく日陰で咲くタンポポのように暗い人生を送ってきました。
私は大人しく、控えめで、自分を守ってしまう事から人に心を開く事が困難な性格になってしまったのです。その事から友人もあまりいなく、恋人もいません。
私は人の輪の中に入れる人が羨ましかったし、誰とでも心を通わせられる人も羨ましかった。そして、女の人に積極的ですぐ思うように口説ける人が妬ましかった。
私には孤独という世界がいつも私と寄り添ってくれた。私は決して孤独が嫌いではなかった。むしろそれを好んだ。飲み会や多数の人とで行動を共にすると、すごく気を使ってしまう。そういう時は早くその場から立ち去って一人になりたいと願うのだった。そして一人になると今度は友人が欲しいだの恋人を作りたいなどの欲求に駆られる事があった。この複雑なジレンマは私を煩悶とさせた。
正直、私は人と関わるのが恐い。そして孤独も恐い。私はどうすればいいのか分からない。しかし、生があるからこそ人と関わらなければいけないし、孤独感を味わう。
いっその事、もっと楽な天国やユートピアへ旅立ってしまえば私の葛藤は消え去る。もう善い人扱いで生きていくのは私には堪えられない。私は社会やこの世界での適応能力が乏しいと考える。このまま生きていても人間のはしくれであろう。
いっその事、私はこの世界を離れてしまいたい。悩みや苦しみの無い、穏やかな平和な世界へ。そろそろ時間がやってきた。私は天国へ旅立とう!どうか残された皆様もお幸せに。 池谷幸二郎。」
そして私はホテルのシャワールームの浴槽に湯をため、睡眠薬を何錠か口に含み、ナイフで手首を切った。