神のパシリ 11

ディナー  2009-10-22投稿
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停滞した刻。

うつろわない景色。

ただ、そこにある、此岸と彼岸。

気がつくと、ゼルはそこにいた。

彼方には、流れを知らぬ川と、浮かぶ一艘の小船。

その傍らに立つ、フードを目深に被った人影が、少し驚いた様子で声をかけてくる。

「…おや、小間使い殿。皮肉な再会ですな」

渡し守なのだろう。手には櫂が握られている。

「まさか、ここに来られてしまうとは」

渡し守は、穏やかに笑っているようだった。

「あなたが死者として渡られたら、神はさぞ悲しむでしょうなぁ。

あなたのそのいでたちを神は大変気にいられ、自らの魂を小さく小さく分け、練り、小間使いとしたのです。

小間使いと言ったら粗末に感じるでしょうが、そんな事はありません。

死の神も、命を扱うお方。命には慈しみもありますし、命を、存在を創る憧れもあったのです。

間違っているのは、他の神と、福音をねじまげた人間です。

死は悪ではない。

光に影があるように、必然の存在なのです。

死があるから、
命には限りがあるから、人は輝く、輝こうとするのですよ。

今の人間は、それを忘我の彼方へ追いやろうとしています。

確かに、死は恐ろしい。

痛みもあるし、経験も、連れ添った他者も、地位も名誉も財産も全て失ってしまう。

そして何より、自分という存在が消えてしまう恐怖は何にも変え難い。

ですが、生まれたら、いずれ死ぬ。

始まれば、いずれ終わる。

それは、命だけではない、【存在】という定義においての必定なのです。

貴兄は、その代弁者。

実は貴兄は、自らが思うより大きな存在なのです。」

長い口上に、ゼルの瞳がやるせなさを帯びて曇った。

「…主に、謝らねばならんな」

また、フードの下で渡し守が皮肉を含んで微笑んだ。

「大丈夫、貴兄は渡らない。いや、渡れないのです」

「…?」

「…ほら、そこに」

渡し守がフードをついと上げ、その眼ともとれぬ暗い瞳が、ゼルの後方をさした。

振り返ると、

あの少女が、ゼルの上着をしっかり握っている。

「貴兄は、まだ死者ではない。

  戻りなさい」

そしてまた、渡し守は穏やかに微笑んだ。

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