ハゲ散らかした頭を振り乱して、前田が俺に向かって何か叫んでいる。
恐らく、真面目に授業を受けろ。といった意味だろう。
クラス中の視線を感じた。
俺は、今にも血管が切れて倒れそうな前田を見かねて、渋々口を開いた。
「そりゃあ、授業が楽しけりゃ真面目に受けますよ先生。教科書の内容をただ黒板に書き写すのが教師の仕事なんですかね?だったら家で教科書読んでた方がましだ。
あんた、教員試験受け直せ。ついでにその申し訳程度の髪も剃ってすっきりして来いよ。不快だからな。あと、少し痩せた方がいいよ。ハゲデブに何を言われても説得力ないからね。」
どこからともなくクスクスと笑い声が聞こえた。
前田が俺の前に立った。前田の豚のような醜い顔は怒りで紅潮していた。
前田は俺の右頬を力いっぱい殴った。
女子生徒の小さな悲鳴が聞こえた。
「教師を侮辱するのもいい加減にしろ。」
前田の声は震えていた。
俺は殴られた右頬よりも、心が痛んだ。
豚に殴られたのだ。家畜無勢の、糞尿まみれの短い前脚で…
これほどの侮辱は無い。
「俺は体罰が悪いとは思わないよ。むしろ、大賛成だ。ただし、それは体罰を与える側が受ける側よりも立場が上で、かつ与える側の意見が正しい場合のみだ。あんたはその両方を満たしていない。」
「なんだと?俺は教師でお前は生徒だ。お前は授業を聞かず居眠り、更には教師である俺を侮辱した。おまえの言う条件に当てはまっているだろうが。」
前田はまだ拳を握っている。
クラスは静まり返っていた。
「それはお前の意見だろう前田…いや、豚。条件に当てはまっているかどうかは俺が決めることだ。俺はお前が教師だと思ったことはない。お前の授業は酷く退屈で、無意味だ。聞くに耐えないよ。お前の声を聞きながら居眠りできた俺を、逆に褒めてほしいぐらいだ。」
豚は怒り狂い、奇声を上げながらもう一度前脚を振り上げた。
豚が二度も人間に危害を加えることは許されない。
俺は、この家畜にもならない無能な豚を処分することに決めた。