「…主よ、何か知っているようで。そして…隠しているようで…」
ゼルの口元が怪訝に歪んだが、死の神はまるで気にする様子もない。
「そなたが知ったところで、どうなるものでもないわ」
「では、教えて頂けるので?」
「必要ない」
死の神は少し欝陶しい感じで返す。
「…して、今はいずこにおる?」
「…わかりません。雨音がします。俺に関与した女から聞きましょう」
「…よかろ。ゼル、詮索はそなたのためにはならんぞ。そなたはわらわの命を果たせばよい」
「…検討しておきます」
まるで先程とは違う、小間使いとしての粗末な扱いだ。
「よいか、ロロでわらわが下知を果たせ」
ぶっきらぼうに、通信は終わった。
嘆息するゼルに、背後から声がかかる。
「…気付いたんだ…よかった…」
振り返ると、寝ぼけ眼の少女が、毛布を払いベッドに腰かけている。
「聞きたい事がある」
「…?」
「ここはどこだ」
「雨の街、ロロだよ」
奇遇なのか、運命なのか。ゼルは期せずしてロロにたどり着いていたのだ。
なるほど、雨の音にも、カビ臭さにも納得がいく。
「それより、身体は大丈夫なの?」
「問題ない。俺は普通の人間とは違う」
少女は、穴が開いたゼルの衣服から見える完治した体に、驚きを見せる。
「すごい…。心配したよフェルゼル兄…あれじゃ死んだっておかし…」
「待て。俺はフェルゼルという名前ではない」
「…えっ?」
「俺はゼル。追われながら旅をしている、現世の隠者だ」
それが、ゼルの人間世界での存在口実なのだ。
「…でも…その顔…それにその…」
少女は恥じらいを持った表情で、ゼルの瞳をのぞき見る。
「その赤いキレイな瞳…フェルゼル兄以外で見た事ないよ…」
「…違うと言っている。第一、俺はお前を知らない」
少女の表情は、軽い落胆に変わった。
「…みたいだね。私のコト、本当に知らない感じだもん…」
少女はいじらしい表情で、濡れた視線をゼルへ向けている。
「…聞いて欲しそうだな、フェルゼルが誰なのか」
少女は、呟くように言った。
「私の……血の繋がらない兄さんだよ」