「う、うん・・・。あっちゃんからは、何も聞いてない。」
麗華にも、何も思い当たる節が無いふりをした。むしろ、麗華には、そうしなければいけなかった。
「そう・・・。変だね、気になるけど・・・。仕方無いか。私も、仕事だし、いつまでも、淳の事待ってられないのよね・・・。また、淳から何か言って来るだろうし。」
「うん・・・。」
淳や、茉莉子から、麗華と中川が婚約した事を聞いているのに、一言も触れないで、電話を切るのは、不自然な気がし、私は、心にも無い一言を麗華に掛けた。
「麗華・・・?婚約・・・、したんだって?おめでとう・・・。」
「あっ、うん・・・。ありがとね。茉莉子から聞いた?」
「うん、あっちゃんも言ってたの。」
「そうなのよ。お義父さんが、結婚は早い方が良いって、勧めてくれてね。秀樹は、あんまり積極的では無いみたいなんだけど・・・。でも、私は兎も角、彼は、今年三十だし・・・。」
「良かった・・・、ね・・・。」
「う、うん・・・。香里?何か気になる事有るの?」
何でも無い、麗華の言葉に、胸の鼓動が早まった。
「気になる事なんて・・・、何も無いよ、どうして?」
「うん・・・、何と無く。香里なら、一番喜んでくれるかな?って思ってたけど、何か引っ掛かってる感じだから。」
「引っ掛かってるって・・・。別に。そう?嬉しいよ、本当に。麗華が幸せなら、私は。」
私は、心にも無い事を口走ってしまった。私がしている、麗華に対する、最低な行為を繕う為に―\r
「ありがとう。何か、変な事言って、ゴメン。素直に、喜べば良いのにね、私・・・。」
「また・・・。あっちゃんから連絡来たら、言うね。」
「うん、そうして。約束、ドタキャンされて、怒ってた!って、淳に伝えといて。それと・・・、明日、フライトから東京に戻るから、何か有ったら、留守電に入れておいて。じゃあね。」
「うん、じゃあ・・・。」
麗華との電話を切った後、私は、淳の事は一瞬、頭から消え去り、頭の中が、中川と麗華の事で一杯になった。
幾ら、考えても答えの出ない、深い、ぬかるみにでも填った気がしていた。
中川が、あまり積極的で無い―\r
と麗華は言っていた。それは、以前、中川が私に言っていた事と符合する。
「父親が、麗華を気に入っている。自分は、あんな重くてウザイ女は好きでは無い。」
と・・・。
淳が誰とも連絡が取れなくなっている事に加え、麗華と中川の婚約の事―\r
私の頭は、爆発してしまいそうだった―\r