知ってるよ。
あなたは、あたしのためを思ってうそついてくれてるんだよね。
でも、あなた知らないでしょ。
あなたのうそは、あたしじゃない誰かのためだってこと。
――…?…――
昨日は、家に帰ってからずっと泣いていた。
泣き付かれて、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
『……朝…だ…。』
いつもなら、早く鈴木くんに会いたい気持ちでいっぱいなのに
『あいたくない…。』
わかってる。
鈴木くんが、『美味しかった』って言ってくれること。
食べてもいないカップケーキの味を教えてくれること。
笑って、ありがとう、と言ってくれること。
ぜんぶがあたしのためだったらいいのに。
それはあたしのためじゃない。
泉先輩をかばうため。
のりちゃんに言ったら、ひねくれた考え方するな、って思われるだろうなぁ。
『…でも、そうなんだよ。』
あたしのためじゃない。
『そんな嘘、ついてほしくないなぁ…』
あたしは腫れた眼を冷やしてから
おもむろに制服に着替え、いつもの道をゆっくりゆっくり歩いた。
いっぱいいっぱいになりそうなあたしは、
溜め息をついた。
と同時に、鈴木くんの声がした。
『おはよ。』
あたしは振り返らずに『おはよう。』と答えた。
ねぇどうしよう。
泣きそうなの。
だって わかっちゃうから
あなたが次に なんて言うのか。
『き、昨日のさ…』
『泉先輩から聞いたよ!』
鈴木くんの声をさえぎって、あたしは明るい声を出した。
『あ、あたしのカップケーキ、美味しかったって言ってくれたの!鈴木くんに申し訳ないけど、食べてよかったぁなんて言ってて…笑っちゃった!』
なにべらべら喋ってんだろ。
『ごめん…。』
謝るくらいなら
今すぐ笑って欲しかった。
あたしは
鈴木くんのために嘘をついてる。
鈴木くんは、誰のために嘘をつこうとしたの?
ほんとはあたしのため?
馬鹿みたいな問掛けを自分にしたけれど
あたしはすぐに自分に答えてあげた。
―違うよ。―