知ってるよ。
あなたがあのひとに伝えたい想いを堪えていること。
でも、あなた知らないでしょ。
あたしも、あなたに伝えたい想いを堪えていること。
――…?…――
廊下でのりちゃんに昨日のことを話すと、あたしが泣いて怒れなかった代わりに、怒ってくれた。
『え?!』
『ち、違うの。泉先輩には悪気とかなくて!』
怒ったのりちゃんに昨日のことを説明するのは大変だった。
のりちゃんは、頑張って渡したんだから、気持ちはちゃんと伝わったよ。と言って、ギュッと抱き締めてくれた。
あたしはまた泣きそうになったけど、堪えて笑ってみせた。
教室に戻ると、ゆうたがあたしの机の上に座っていた。
教室にはまだ誰もいない。
朝練のある鈴木くんにあわせて行くせいか、皆より早く学校についてしまう。
『おはよう。』
『おはよ。』
昨日ゆうたが隣にいてくれたから、あたしはずっと泣いていられた。
『…ゆうた、昨日は…』
近付いて、ありがと。と言おうとした瞬間、ゆうたはあたしの腕をぐいっと引っ張って、腕の中に閉じ込めた。
『ちょ、ちょっ…とゆうた!』
突然の出来事に、あたしは上手く抵抗出来ないまま
ゆうたの胸におさまってしまった。
『…昨日泣いたんだろ。』
『はっ?てゆか離してっ…』
『眼、腫れてる。』
『うっさい!』
ゆうたは笑いながら抱き締める力を強くした。
『やッ…誰か来ちゃうってば!』
『カップケーキ。』
…いきなりなによ。
やなこと思い出させやがって。
『…俺のために作ったんじゃなくても、美味かった。』
『……昨日はまずいって言ったくせに。』
『言ったっけ?』
『ふざけんなッ!』
空いてる片手でほっぺたをつねったら、ゆうたは泣きながら腕を離して
『なんだよ元気じゃんか!』
と笑った。
元気なんかじゃなかった。
…ゆうたが元気にしてくれたんだよ。
『…いきなり抱き締めるから何かと思ったじゃん!』
『いや…哀れな捨て犬っぽくてさ。』
『殴るよ。』
ゆうた。
ありがとう。
言いたいけど、言えなかった。
涙が溢れそうだったから。