「…二本足で立ってるな。死ななかったか」
長身のゼルを越す、大きな体躯の偉丈夫が、扉をくぐるように現れた。
白髪混じりの頭髪は綺麗に短く刈り揃えられている。察するに50代くらいだろうか。しかしながら衰えは全く感じられない。
体も、深い年輪は感じられるものの、凛とした気迫に充ち溢れ、内から沸き上がる気力を感じる。そこに、敵意や殺気はない。
「…その回復力…あんた、只者じゃないな」
「まあな。俺は追われながら旅する隠者、ゼルだ」
「ご丁寧に。私はメッツェだ」
メッツェは体躯に似合わない愛想笑いを浮かべた。
「レミーシュは私が雇い主でな。…共存者という表現が適切かもな。彼女も私も、昔ロロのギルドメンバーだった。私は引退して、今はしがない武器商売をしている。レミーシュに養われてるようなもんさ」
メッツェの言葉に、レミーシュは照れ臭そうに頬をかいた。
「へへっ…メッツェは昔、私がギルドに入りたての時の師匠なんだ。恩義なんて…ロロらしくないんだけど、せめてもの恩返しのつもりだよ」
「お前のその甘さが、毎回不安なんだよ」
二人は顔を見合わせ笑う。
「…で、ゼルとやら、あんた、どこへ向かってた」
「…ここだよ」
「…ほぅ」
「…えっ」
メッツェもレミーシュも、意外そうに目を丸くした。
「ふん、こんな腐れた街に用事とは、酔狂な奴だ…。
確かに、フェルゼルに似ているな」
メッツェは、ゼルの全身をくまなく観察する。
「…聞き飽きた。違うと言っているだろう。男にじろじろ見られるのは不愉快だ」
それを聞いてメッツェは面白そうに笑う。
「はははっ、確かに違うな。空気が違う。フェルゼルも鋭気を持っていたが、奴は荒々しく人間臭かった。あんたはもっと達観した感じだ。それに、フェルゼルはシャレが言えない奴だったからな」
おそらくがらくたか、武器の類だろう。鉄の塊にどっかとメッツェは腰を降ろす。
「不思議なもんだ。あんたとは初対面だが、やはり懐かしさがある。フェルゼルでない事は理解しているが…レミーシュが助けたくなるのも分かる」
ゼルは、また嘆息した。
「お前も語りたいクチか。その、フェルゼルとやらについて」
メッツェは、笑ってシワを深めた。