それに、ジーナが一緒に来ることになれば、きっと美香が自ら危険に飛び込もうとするのを、黙って見過ごしたりしないだろう。
美香は、そんな想いを持ってジーナに言った。しかしジーナには、それが、王子がこんな状態になってしまったことへの責め句に聞こえた。
「……わかった。私は、王子と共にここで待とう。」
ジーナは掠れた声で早口に言うと、部屋を出ていった。王子の所へ行ったのかもしれない。
美香は、不意にその背中を追いたくなった。さっきまで行かない方がいいと言われていた王子の元へ、ジーナがあっさりと赴いたことへの違和感はあったが、それより、何より、これが最後の別れになるかもしれないのだ。
「ジーナ!」
アーチを抜けて、すでに長い足で通路の向こうまで歩きかけていたジーナは、ぴくりと震えて立ち止まった。
美香は、できればその広い背中にすがりたかった。すがりついて、泣きたくて、これから起こるであろう恐怖を乗り越えるための勇気を、ジーナからもらいたかった。
最後に、王子の顔が見たかった。
美香は、震える拳を握り締めた。必死で自分を押さえ込む。そんなことをしてはダメだと、本当はわかっていた。決意が揺らぐようなことをしては、ダメだ。
それに、まだ死ぬかどうかなんてわからない。もしかしたら、美香の立ち回り次第では、うまく帰って来れるかもしれない。
(かもしれない、じゃない。帰ってこなきゃいけないんだわ。)
王子にジーナに耕太、そして舞子。みんなみんな、きっと美香を必要としているはずだから。そう信じたいから。
美香は、精一杯、笑った。
「すぐ戻るから、心配しないで待っててね!」
ジーナは振り返らなかった。ただ、左手を軽く上げ、ぶっきらぼうな声で言った。
「当たり前だ。」
そしてそのまま歩き去っていった。
美香は、しばらくその背中を見送っていたが、ホシゾラにトントン、と肩を叩かれ、彼女を見た。
「では、行きましょう。」
「……はい。」
二人は、通路をジーナとは反対の方向へ歩き出した。
隣に並んだホシゾラは、美香を見てちょっと微笑んだ。
「立派ね。彼女に何も告げないなんて。」
「いいえ。そうしないと、気持ちが揺らいでしまう気がしたから。自分のためにそうしたの。」
美香はうつむく。ホシゾラは話を続けた。