「あんたは背格好、それに何より、その瞳が似てるんだ。それだけで聞く義務があるさ」
メッツェは飄々と笑う。
「フェルゼルはな、私の相棒だった男だ。人の命を奪う事に長けていてな、ロロのギルドで最も凶悪で陰湿なアサシンギルドに属していた。
神の祝福か、悪魔と契約でもしたか、奴の目は赤く、見た者を魅了した。その隙に喉元をかっ切るのさ。
だが、死んだ。結構前の話だ。ギルドリーダーが死んで、フェルゼルが後釜に収まった矢先だった。
死体は誰も見てない。だからメンバーは皆、頭の片隅で、実は生きてるんじゃないかって思ってる」
話を聞きながら、ゼルの身体は妙な違和感を感じていた。
魂と肉体の狭間に、それらとは別の意識、思念のようなものを感じる。
か細いそれは、やがておさまった。
「さて、じゃああんたの話も聞いてやろうか」
メッツェは胸ポケットから煙草をつつきだし、火をつけ、ゼルよりも豪快に吹き出す。
「こんなクソみたいな街に観光で来た訳じゃないだろう。話してみな。私もレミーシュも、あんたがフェルゼルに似過ぎていて、とても他人とは思えん。条件によっては手助けしてやらんでもない」
ベッドの上で、レミーシュがこくこく頷いている。
「…探している」
「…人か?」
「分からん」
「…?」
「最近、ここで人がよく死んでいるだろう?」
「ここでたくさん人が死ぬのは日常茶飯事だ」
「…その中で、変わったものはなかったか?」
「というと?」
「例えば、明らかに違う死に方。こんな掃きだめの街で、不自然に死んだ奴、とかな。
本来人の死は命の終わりでしかない。人そのものの都合で、死は凄惨なものに塗り替えられてきた。
事故。
病。
殺人。
事故は突然なだけで、人間が分不相応な『物』…例えば、道具や建物だ…を作らなければ起こり得ない。
病は、人が他の生物や環境…大地や空気だな…を淘汰し、世界の拮抗を崩すから起こるものだ。
殺人は…言う必要もないだろう。
推測でしかないが、それに当て嵌まらない死に方が、ここでは…いや、人の世では不自然なはずだろう」
「まるで神の御使いの台詞だな」
メッツェは、ゼルの口上をそう皮肉った。