「番人はどうして入り口を開かなくなったの?犠牲を払えば開いてたんでしょ?そこに、覇王が関係しているの?」
美香の推測は、あながち間違いではないらしかった。ホシゾラはこくりと頷いた。
「覇王は番人を手なづけてしまったのよ。そして彼らに言い渡した。どんなことがあっても、決して扉を開いてはいけないと。」
「じゃあ、私が犠牲を払っても意味ないんじゃ……?」
「いいえ、意味はあるわ。あなたは光の子供だもの。私たちのような『影』とは違うから、きっと番人も無下に追い払ったりしないで、話を聞くくらいはしてくれるわ。」
ホシゾラの寂しい笑みが、美香の胸に想像を浮かび上がらせた。きっとホシゾラたちは何度も挑戦したのだろう。“闇の小道”に光の子供が、耕太が取り残されていることに気づいたその時から、ずっと番人に扉を開けるように挑んでくれていたのだろう。
ホシゾラは真っ直ぐな目で美香を見た。
「“闇の小道”に捕らえられている光の子供は、耕太、という名前だったかしら?」
「はい。」
「その子はあなたにとってどういう存在なの?」
「幼なじみなんです。家が隣同士で、ずっと今まで一緒で……。」
美香と耕太は同じ小学六年生だが、六年間、一度もクラスが離れたことはなかった。それについて深く考えたことはなかったが、よく考えると、ああもうずっと一緒にいるんだと、美香は吐息を漏らした。
ホシゾラは「そうなの。」と返事をした後は、ずっと黙ったままだった。たまに角を曲がる時や渡り廊下を移動する時は、「こっちよ」と声をかけてくれた。
沈黙が落ちる中、鳥の鳴く声だけが、紙をちぎるように静寂を裂いていった。
美香は、口の中がカラカラに渇いていることに気づいて、唾を飲んだ。自分の心臓の音まで聞こえそうな気がする。もうかなり歩いたはずだから、そろそろ中心部に着くはずだ。それにしても、何故こんなに人がいないんだろう。美香は余計な所で不安になった。
「そこのアーチをくぐって……着いたわ。」
ホシゾラの声で、ようやく美香は足を止めた。
目の前には、予想よりもかなり大きい部屋が広がっていた。軽く小学校の体育館くらいはあるだろう。
石造りの部屋には窓がなく、重苦しいものが立ち込めていた。部屋の中央には、四角い石舞台がどっしりと置かれている。