僕は当てもなく車を走らせた。人のいない方を目指しながら。
気付くと車は海沿いの道に出ていた。
煙草の煙りを逃がす為に開け放たれた窓から、潮の香りが鼻をつく。
コンビニの横のパーキングを横目に見ながら、海に直接繋がる道を探した。残念ながらそんなものはなく、黒く、淀んだ海を目の前にしながら、仕方なくその場を去った。
結局車は、高速沿いにあるラブホテルでとめざるをえなかった。
駐車場から部屋に直でいけるところ。訳ありのカップルなんかが利用するような、決して清潔とは言えないが、値段はそこそこする。そんなところで、僕はトランクを開けた。
女は幸せそうに眠っていた。
まるでこの世の憂いを知る前の、パンドラの箱を開ける前の人間の如く、「苦しいって、何?」
と今にも聞いてきそうな程幸せというものを独り占めにしていた。
僕が受けた印象は、少なくともそうだった。