ジョンとの思い出といえば、一番はじめに思い出すのがギターを弾いている姿やギターを教えてもらった事だが、逆に何気ない日常の事のほうが俺の心には深く残っていた。
ジョンは比較的朝が早く、田舎に住む俺達家族とも生活のリズムが合っていた。朝飯前の田畑の作業にもジョンは積極的に加わって、一ヶ月もしないうちに一人前の働きぶりをみせた。
初めて食べる日本食にもジョンは臆することなくチャレンジした。納豆の臭いは苦手みたいだったけど、一口食べていつもの屈託のない笑顔を見せていた。あれだけ器用に動く指を持っているのに、箸の使い方だけは一向に上手くならなかった。そんなジョンが可愛らく見えたのは多分俺だけじゃなかったと思う。
ジョンは基本的には人懐っこくて、なのにギターを弾く時は人見知りになって、そのギャップが色んなところに出ていたように思える。箸の件がその一例といえるかもしれない。
外にいる虫にはなんともないような態度でいたけれど、家の中でひとたび虫が出ると飛び上がりそうなほどビクついていた。
服は汚らしいシャツとボロボロのスーツをずっと着ていたけれど(気に入っていただけかもしれないけれど)、靴だけはピカピカの物を履いていた。
ところどころに見えるそんなジョンの二面性が俺は好きだった。好感が持てるってやつだ。
だからこそ、なんともない日常の方が俺にとっては深く心に刻まれたのかもしれない。