日本シリーズ最終戦、3勝3敗同士で並んだ東京ブラザースと福岡ドルフィンズ。
そして9回もいよいよ裏へ。3対1でドルフィンズが2点リード。
9回の裏、ツーアウト一塁、二塁で打席はブラザースの4番松山。
マウンド上はドルフィンズエースの三上。三上は思った、まさかこういう展開で松山と対戦する事が巡ってくるなんて。
思えば高3の夏の甲子園決勝戦、この大会では二人の大物球児の存在が騒がれていた。黎明学院のサウスポーエースの三上信二。もう一人は崇徳高校の4番スラッガーの松山隆。
両者のいる高校は圧倒的な強さで決勝まで勝ち上がってきた。
そして決勝、黎明学院の監督船川はバッテリーにこの試合松山の全打席に敬遠のサインを出した。三上は心の中では松山と勝負したかったが、監督の命令は絶対的。悲願の優勝旗の為にその指示に従った。
その結果、2対0で決勝は黎明学院に軍配が上がり優勝旗を手にした。やはり一人の強打者率いるチームよりも絶対的なエースがいるチームのが有利なのか。
三上の心の中には優勝しても何か心の中にモヤっとしたものがあった。
俺らは松山と勝負をしていない。姑息の手で掴み取った優勝、三上にはそれが許せなかった。
その後、三上と松山は高校を卒業すると三上はドルフィンズ、松山はブラザースへ入団する事になった。二人ともドラフト1巡目でだ。二人はプロに入り、結果を残していった。そして高校3年から10年後、三上はドルフィンズのエースに、松山はブラザースの4番へと成長していった。
神のいたずらか。日本シリーズ最終戦でまたもこの二人が対戦するとは。
マウンド上の三上にドルフィンズキャッチャー村上がマウンドへ行く。
「三上、あと一人だぞ。どうする?打者は4番の松山だぞ。ここは勝負を避けてこのシリーズ当たりの無い5番の本間と勝負しようと思うんだが。」
「村上さん、俺に松山と勝負させて下さい。俺にはアイツと正々堂々と勝負したいんです。」三上にはあの夏の決勝戦の事が忘れる事ができなかった。
「お前がそういうなら、そうしよう。だが、ファンやベンチを裏切る行為はするなよ。これが最後なんだ。松山を抑えてビールをいっぱい浴びようぜ。」
「了解です。ありがとうございます。村上さん。」