メッツェはすぐに戻ってきた。
リーダーはゼルにとても興味を示し、レミーシュに連れて来させるよう指示したそうだ。
「私は引退した身だ。首を突っ込まれすぎるのは面白くないのだろう」
メッツェはそう鼻で笑っていた。
「ゼル、気をつけろ。外は人の暗黒が渦巻いている。それに今のリーダーは…お前のように浮世離れした奴だ」
そのリーダーが約束した、刻限が迫ってきていた。
ロロに咲く、一輪の傘の花。
レミーシュの咲かせたその中にゼルはいた。
雨が、一面に降りしきっている。
この街で行われている、汚い血生臭い行為を、生臭い雨で流そうというのか。
それが神の仕業なら、とんだ皮肉か自虐の洒落だ。
自らが創った命だろうに。
生臭い、生暖かい雨は、人の憎悪や汚れ、傲慢さを流すつもりか、強さを増している。
しかし、その雨音がまた、人が死ぬ音を消している。
雨音の中を憎しみや妬みが駆けずり回り、命が潰れるのが分かる。
この雨が神の仕業なら、神は現実逃避したいのだろう。
自らが創った命の愚かさを雨で隠し、そしてゼルの主である死の神に全て押し付けるのだ。
ゼルは少し苛立ったが、彼に無謀にも黒い刃を向ける、神の愚作どもを返り討ちにする事で、少しは気が晴れた。
人の作った愚かな価値、金が欲しいのか。
それとも、単に命を奪う支配感に狂ったか。
雨で溢れる街を歩く神のパシリと少女に、襲い掛かる欲望の群れ。
びしゃびしゃ降る地面に、それらを叩きつける。
この手合いに、一日に幾つの傘の花が散るのだろう。
それでも死は平等で、死んでしまえば平等で。
善人でも悪人でも、
男も女も老いも若きも、
死の福音は平等なのだ。
だからゼルは殺さない。
その規律を傾けぬため。
人に、もっと明確に、もっと死の尊さを刻ませるため。
一分、一秒長く生きる事こそが、死の尊さを刻み込むのだ。
同時に、生への執着を刻み込む事になっても。
どこかで、ゼルは人を信じているのかも知れない。
斜に構え、人を血の詰まった袋、魂の器としてしか考えていなかったとしても。
そして二人は、ギルドへたどり着いた。