人が作る建物は、どうしてこう、芸術性に欠くのだろう。
木材のように、ただ突き立てられただけのビルを見上げるゼル。
レミーシュが傘の花を畳み、二人はそこへ入った。
渦巻いている、黒い感情と欲望たち。
薄暗い空間に、いくつもあるのが分かる。
まるで暗闇にたむろする黒兵隊蟻のように。
「…おい、売女ッ」
「きゃっ!?」
不意に、レミーシュの豊かな胸が鷲掴みにされて潰れた。
「…っく!」
「フェルゼルの糸屑ズベ公が何しに来たァ?」
全身を、呪符の書かれた布で覆った男が、汚らしい手でレミーシュを弄んでいる。
「フェルゼルが死んでから、ただの囮にくらいしかならねぇ売女がッ」
頭にくる神の垢だ。
苛立つ声量に、ゼルは男の首を掴みあげた。
「…下劣な奴」
男の血相が変わる。
「…お、おメェ…!フェルゼル…!?」
「…違うし、どっちでもいい」
ゼルは握力を強め、呪符ミイラのような体をレミーシュから引きはがす。
「…リ、リーダーに会いに…メッツェの計らいで」
屈辱で唇を引き絞り、レミーシュは呻くように言う。
「…けっ、フェルゼルに、引退した燃えカス野郎か。せいぜい二人にそのカラダで『ご奉仕』してな……ぎゃっ!」
「ミイラのくせにうるさい奴だ」
男をいとも簡単に後方へ投げ飛ばし、ゼルはブーツを再び鳴らして歩き出した。肩を震わせながら、レミーシュが続く。
「…ごめん、ゼル」
「何がだ」
「気分悪いよね…?」
「良くはないな」
「私…主な仕事は『カラダ』を使って囮になる事なんだ…。それくらいしか、できないの…」
「…確かに、お前のカラダはいいエサになるだろうな」
ゼルは、その赤い瞳を出来るだけ温めて、レミーシュを一瞥した。
傍から見たらそれでも鋭気に満ちた瞳だが、レミーシュは理解し、微笑んだ。
「…ありがと」
…暗闇が、ざわつく。
ざわめき、畏怖し、混乱し。
それは、ゼルがフェルゼルに似ているからだろう。
二人は暗闇からの視線を浴びながら、一部屋の空間に引き出された。
「ようこそ、可愛い来訪者ちゃん」