子供のセカイ。86

アンヌ  2009-11-01投稿
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ライオンがしゃべった……が、まあそれは良しとしよう。ここは“子供のセカイ”なのだ。光の子供が想像したものなら、何があってもおかしくない。
それより、「久しぶり」だと笑われたことの方が、美香には驚きだった。美香にはライオンの知り合いなんていないし、こんな恐ろしげなものを想像したことさえない。
(もしかして、私を騙そうとしているのかしら…?)
ホシゾラの話から聞く限り、十分あり得る。こいつは覇王の手下なんだ……。そう思うと、強い苛立ちと共に立ち向かう勇気が湧いてきた。
「あなたが番人ですか?」
美香はさっと立ち上がると、石舞台の端ギリギリまで退いてライオンと距離を取った。ライオンはやけに愉しそうな顔で、首を傾けたまま美香をじろじろと眺めていた。
「そうだ。我が番人だ。」
神々しくもなく、獣じみてもいない。やけに人間臭いしゃべり方だった。ひょっとして後ろにマイクでも隠してあるんじゃ……、と番人の首筋辺りをバレないようにそうっとのぞきこんでみるが、「何をしている?」の一言で、美香はびくりと姿勢を戻した。
「何もしてないわ。」
「……まあよいが。それより、小娘よ。何をしに来た。今度こそ、そなたが自らを犠牲にしに来たのか?」
その言葉に、美香はぴくりと反応した。この人、いや、獣は、何を言ってるのだろう。まるで美香がどういった経路で“子供のセカイ”に入ったか知っているみたいだ。
何も答えない美香を見て、番人は痺れを切らしたのか、吐き捨てるように言った。
「よもや忘れてはいまいな、我の声を。そなた達、無礼にも少年の薄汚い靴などで“闇の小道”を抜けようとしたではないか。その時、一喝してやったのが我よ。」
美香はハッと思い出した。最初に耕太と二人で“闇の小道”を抜けようとした時、不思議な声に怒鳴られ、扉を抜けられなかったことを。その声は、今目の前で優雅にひげを撫でているライオンのものだったのだ。
「あなた、あの時の…!」
「まさか本当に忘れておったとは。無礼千万、これは犠牲に命を頂くしかないなあ……。」
言うが早いが、番人は一声吠えると、前足を美香に向かって降り下ろした。美香はつま先立ちになって避けたが、石舞台から飛び降りることも、怯えてうずくまることもしなかった。
ホシゾラの言う通りだ。こいつはなんとかして、美香の命を奪おうとしている。



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