どの位、時間がたったのだろう…。
乗り換え案内の車内放送で目を覚ました。
寝ぼけ眼で辺りを見回す。
聞いた事の無い駅名、見た事の無いローカルな駅。人は一人もいない。
どうやら、ここがこの電車の終点みたいだ。
(ここ…どこだろう?)
少しの不安を心に押し込め、ゆっくりと立ち上がり、ホームへ降りた。隣には、古ぼけた短線列車が、お客を待っている。
なぜか、この列車にも人は一人も乗っていない。
(回送列車…じゃ…ないよね?)
押し込めた不安が さっきよりも、おおきくなり顔を覗かせる。
(次の電車…待とうかな。。)
そんな事を思いつつも、気がつけば短線列車のシ−トに身を任せていた。
(今、何時かな。)
ふと思い、腕時計に目をやる。
「えっ…?あ…あれ…?」
電池を変えたばかりの、腕時計の針が止まっている。
「やだぁ…なんで〜?」
ホームの時計を探した。どこにも時計が無い。
(どうして駅なのに時計がないの?!)
もう一度 見渡しても、やはり時計は見当たらない。
(そういえば、ここ…時刻表もない…。)
不安が焦りへと変わり始めた。
やな予感がした。
(とにかく、降りよう!!)
出口へ向かう為、立ち上がり一歩踏み出した。
…と同時に、アナウンスも無く 扉が閉まった。
(えっ…!?ち、ちょっと、うそでしょ−!?)電車がゆっくり走り始めた。
(なんなの…。この電車…なんかおかしい…。)
とりあえず、シ−トへ戻り 次の駅まで待つ。すると、
「お嬢さん…。新顔だねぇ…。」
誰も居ないはずの 一番端のシ−トに 男とも女ともわからない一人の老人が下を向いたまま、声を掛けて来た。
(いつの間に乗ってたんだろう…?)
ワタシ:「あの…、この電車…どこに行きですか…?」
勇気をだして聞いてみる。
老人:「………。」
ワタシ:「あの〜……?」
老人:「行き先なんぞないさ。」
ワタシ:「え…?」
老人:「あんた…旅は好きかい?」
ワタシ:「旅…ですか?えぇ、まぁ、好きです…けど?」
老人:「そうかね。そりゃぁ、よかった。まぁ、せいぜい楽しむこった。行き先なんざぁ、考えんこっちゃね。」
ワタシ:「はぁ…」
「ふぅ…」ため息をつきながら、車窓に目をやった。{続}