余計な物など何もない、死の主の部屋を思わせる空間に、玉座が一つ。
そこに、よこしまな黒蟻どもの頭がいる。
風貌は、とても柔和で穏やかに見える。ただでさえ細い目は、二人を捉えてますます細まる。
綺麗に切り揃えられた銀髪は、まるで貴族か小公子のようだ。
細い躯を玉座から起こし、その青年はにこやかに微笑を浮かべた。
「待ってたよ、レミーシュ。部下が不躾な事をしたらしいね。ごめんよ。
大丈夫、殺しとくから」
まるで見ていたかのような言葉は、最後にいびつに凍り付いた。
「…君がゼルか。はじめまして、僕が現在のギルドの頭、キアだ」
「ゼルだ」
玉座から降りたキアと握手をする。
…どくん。
ゼルの神経が脈打った。
…何だ…?
目の前の優男は、不思議そうににやけている。
「…で、話はメッツェ翁から聞いたよ。死に様なき死体どもの真相究明に来たそうじゃないか」
死に様なき死体。
うまい表現に、ゼルは少々感心してうなずいた。
「あぁ。上司に頼まれてな」
「上司…ふ〜ん、そうかぁ」
間延びした返答をしながら、キアはレミーシュを見た。
「ごめん、可愛い子猫ちゃん…席を外してくれないかな」
「…は、はいっ!」
レミーシュは怯えて尻尾をぱんぱんに膨らませた子猫のように、すごすごと退出する。
ゼルとキア、二人になった。
「フェルゼル…とかいう前の頭に似てる…というか同じらしいね?」
「またその話か。いい加減聞き飽きた」
「…その様子じゃ、何も知らないみたいだ」
「…どういう事だ」
「…いや、気にしないでよ。死に様なき死体についてだけどさ…
こっちとしては協力しても利益がないんだよね。ま、あんまり死人が出過ぎるのは確かに困るんだけどさ。それにたいした情報持ってないし。
でも今、僕の組織だからさ、ここは。僕のさじ加減なんだよ。
…で、協力してやってもいいんだけど…」
それ以降、沈黙が空間を包み込む。
「…続きを言え」
キアは、笑った。
その笑みは、今までと違った。
「話してくれないかなぁ、君が知ってる事ぜーんぶ。
…君、神のパシリでしょ」