午後2時。
無数の薄汚れた男達で賑わう、一件の古びたバー。
その薄暗い空間の中で只一人、周囲の者とはかけ離れた冷静さを持つ男がいた。
やがてその男はカウンターの前へと立つと、目の前でグラス拭きに集中するマスターに顔を向ける。
「…尋ねたい事がある」
突如と男が発した言葉に、マスターは思わず手を止めた。
「何だ?」
すると男はジャケットの内側に手を伸ばし、一枚の写真を取り出す。
「この少女…。見覚えは?」
そう言って差し出された写真をまじまじと見つめるマスター…。
そこには、ブランコに乗りながらカメラに向かって無邪気な笑みを浮かべている女の子が写されていた。
「さぁな。しかし可愛いなぁ。天使みたいに輝いてるぜ。この子がどうかしたのか?」
男は写真をポケットに仕舞うと、
「…消えた」
それだけ言い、彼は出入り口の扉へと歩を進める。
扉を開け、外へと出てみれば、心地よい新鮮な空気が彼の体を包んだ。
そして目の前では、一台の黒い車が停まっている。
「随分と早いな」
彼はそう呟くと、迷わずその車に乗り込んだ。
「どうでした?」
ハンドルを握る、金髪の青年が彼に尋ねてくる。
「駄目だ。そっちは?」
「駄目です。人捜しは苦手で…」
青年はそう答え、笑みを浮かべる。
…その時。
「うん?」
鳴り響く携帯をすぐさまポケットから取り出し、男は電話に出た。
「どうしたウェンディ? …そうか、わかった。直ぐ行く」
携帯を勢い良く閉じると、彼は隣りに座る青年に言う。
「行くぞダニー」
続く